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東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)80号 判決

原告

首藤善吾

右訴訟代理人

徳田靖之

工藤隆

被告

総務庁恩給局長

藤江弘一

右指定代理人

秋山弘

外三名

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める判決

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和五七年八月二四日付けでした旧軍人普通恩給請求棄却裁定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告の旧軍人歴

(一) 基礎在職年

原告は、

(1) 昭和一四年五月一日現役兵として歩兵第四七連隊補充隊に入隊し、昭和一七年五月二日現役延期解止、除隊となり、

(2) 昭和二〇年七月三〇日臨時召集により歩兵第三八七連隊に入隊し、昭和二一年一〇月一六日旧軍人を退職した。

(3) 原告の退職時の階級は、陸軍上等兵であつた。

(二) 在職年加算事由

原告はこの間、

(1) 昭和一四年八月二八日から同年九月一六日まで満州において戦地戦務に従事し、

(2) 同年九月一七日から昭和一五年三月三一日まで擾乱地において勤務し、

(3) 同年四月一日から昭和一七年五月二日まで国境警備に従事し、

(4) 更に昭和二〇年七月三〇日から同年八月八日まで外国鎮戌に服務し、

(5) 同年八月九日から同年九月二日まで戦地戦務に従事し、

(6) 同年九月三日から昭和二一年一〇月一六日まで外国鎮戌に服務した。

2  在職年の計算について

(一) 在職年算定における切上げ原則

実在職年や加算年の算定方法としては、わが法制上、二種のものが認められる。

その一は、実在職年あるいは加算年を暦に従つて計算し、基本単位(月あるいは年)未満の端数を切り上げる旨定めておく方法であり、軍人恩給法(明治二三年法律第四五号)二三条但書及び昭和二一年勅令第五〇四号による改正前の恩給法施行令(以下「改正前の施行令」という)一一条ノ四がこれである。

その二は、基本単位未満の端数が生じないように、その始期、終期のとり方を工夫する方法であり、昭和二一年法律第三一号による改正前の恩給法(以下「改正前の恩給法」という)二八条一項、四〇条二項がこの方法を採用している。この場合に基本単位未満の端数を生じることがないのは、その始期及び終期について端数の切上げ処理がなされているからであり、これも、方法は異るけれども、端数の切上げを当然の前提とするものである。

このように右のいずれの方法も基本単位未満の端数は、すべて切上げ処理することを原則としている。

(二) 改正前の恩給法の法意

改正前の恩給法二八条一項は在職年の計算全般について月を基本単位とするとの原則を定めた規定と解すべきである。

仮りに右が実在職年に限つての規定であるとしても、同法四〇条二項の規定と相まつて、改正前の恩給法は、全体として在職年(実在職期間に加算期間を合算した期間)の算定は月単位で行なうべき旨を規定しているものと解すべきである。

同法は一定の場合に実在職一月につき三分の一月から三月までの範囲の加算をする旨の規定を設けているが、これは加算の割合を表示したにすぎず、実在職期間に右の割合的加算を行なつた結果得られる合算期間が在職年数に引き直されるのである。そうであれば、月を基本単位とする改正前の恩給法にあつては、実在職年(基礎在職年)のみならず在職年についても一月に満たない数値は一律に切り上げられ、一月として扱うこととなるのが当然である。

(三) 原告の在職年の計算

(1) 基礎在職年(実在職年)の計算

原告の旧軍人としての実在職年は、改正前の恩給法二八条一項、二項本文により、始期及び終期の端数切上げによる前記1(一)(1)の三年一月と同1(一)(2)の一年四月を合算した四年五月である。

(2) 加算年の計算

加算年は改正前の恩給法三二条ないし三五条、四〇条及び九二条並びに恩給法の一部を改正する法律(昭和二八年法律第一五五号)附則二四条六項により、右基礎在職年のうち前記1(二)(1)は一月につき三月の割合による計六月、同1(二)(2)は一月につき二月の割合による計一年、同1(二)(3)は一月につき二月の割合による四年四月、同1(二)(4)は一月につき一・五月の割合による一月一五日、同1(二)(5)は一月につき三月の割合による六月、同1(二)(6)は一月につき一月の割合による一年一月が各加算され、以上の加算年の合計は七年六月一五日となる(右加算年の計算上、二種以上の重複加算が可能となる基礎在職期間に対しては、改正前の恩給法四〇条三項に基づき、最も利益なもの一種類が加算される)。

(3) 合算

従つて原告は合計一一年一一月一五間、旧軍人として在職したものとみなされる。

(四) 原告の恩給受給資格

前述のとおり、改正前の恩給法における在職年の月に満たない端数は切り上げられるべきであるから、原告の総在職年は結局、一二年となり、同法六一条の二第一項所定の在職年一二年を満たしている。

3  本件裁定

原告は、昭和五五年九月一日、被告(当時、総理府恩給局長)に対し、改正前の恩給法に基づき旧軍人普通恩給の請求をした。

これに対して被告(前同)は、昭和五七年八月二四日付けで右請求を棄却する旨の裁定(以下「本件裁定」という)をした。

4  前置手続

原告は、本件裁定に対して、昭和五七年一一月二九日異議申立てをしたが、昭和五八年四月一八日棄却され、同年六月一一日内閣総理大臣に対して審査請求をしたが、昭和五九年二月二三日に棄却された。

5  結論

よつて違法な本件裁定の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否並びに主張

1  請求の原因1の各事実は認める。

2  同2は、そのうち(三)を認め、その余の主張は各法規の存在の点を除き争う。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は認める。

5  本件裁定は以下に述べるとおり適法である。

すなわち、改正前の恩給法二八条一項は「公務員ノ在職年ハ就職ノ月ヨリ之ヲ起算シ退職又ハ死亡ノ月ヲ以テ終ル」と規定するところ、右規定は、実在職年を計算する上での始期及び終期、並びに実在職年の計算に関する限りで月単位をもつて計算する旨を定めたものにすぎず、規定の文言からも明らかなように、後述の加算年の算入によつて生じる一月に満たない期間(以下「端月数」という)についてまで、これを一月に切り上げることを定めたものではない。

改正前の恩給法及び同法施行令は加算年の程度について、実在職一月につき三分の一月から三月としているため、本件のように、実在職年月数と加算年月数を合算した場合に端月数が生じることがあるが、この端月数を一月に切り上げることを認めた規定ではない。

ちなみに、恩給法等においては、改正前の施行令一一条ノ四のように、端数の切上げをする場合には、その旨を明文で規定しているところである。

以上のとおり原告の在職年数は下士官以下の旧軍人としての普通恩給最短在職年限一二年に達していないのであるから、原告に旧軍人普通恩給を給与しないとした本件裁定は適法である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(原告の旧軍人歴)、同2(三)のとおり加算年をも合算した原告の旧軍人在職年の合計が一一年一一月一五日であること、同3(本件裁定)、同4(前置手続)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二原告の主張は、改正前の恩給法二八条一項が加算年をも含めた在職年の計算全般について月を基本単位とする原則を定めたものであり、仮にそうでないとしても同条項は同法四〇条二項の規定と相まつて同法全体として右在職年の算定を月単位で行なうべき旨を規定しているというものである。

しかし、改正前の恩給法二八条一項は実在職年の計算に関する規定であり、同法四〇条二項は加算年を附すべき基礎在職年に関する規定であり、加算年についての端月数の切上げを直接規定したものでないことは明らかである。右条項がそれぞれ右期間計算の始期及び終期を月を単位として定めていることは原告指摘のとおりであるが、その文言から、加算年の計算から生ずる端月数についてまで一月に切り上げる旨を定めたものと解することはできない。

同法二八条ノ二の「防衛召集ニ依リ部隊ニ編入セラレタル軍人ノ在職年ノ計算ニ関シテハ本法中ノ在職年ノ計算ニ関スル規定ニ拘ラス勅令ヲ以テ別段ノ定ヲ為スコトヲ得」との規定を受けた改正前の施行令一一条ノ四第一号は「在職年ハ就職ノ日ヨリ之ヲ起算シ退職又ハ死亡ノ日ヲ以テ終ル」と、同第二号は「在職年月数ハ一召集待命期間内ノ在職日数ヲ三十日ヲ以テ除シテ得タル数ニ相当スル月数トス此ノ場合ニ於テ三十日ニ満タサル剰余日数ヲ生シタルトキハ一月トシテ計算ス」とそれぞれ定めているが、右各号も加算年の計算により生ずる端月数の切上げを認めた規定ではない。

もつとも、原告の引用する軍人恩給法はその二一条において加算年を年単位で定め、二三条但書において年未満の端数を切り上げていたが、同法は恩給法(大正一二年法律第四八号)八四条により廃止され、本件裁定時には適用の余地がない規定であつて、これを本件裁定に係る加算年の端月数切上げの解釈上の根拠とする見解には賛成できない。

改正前の恩給法は、加算年として実在職一月につき半月(三七条ノ二)または三分の一月(三九条)などの端月数を生ずべき規定を設けたにもかかわらず、前述の同法施行令一一条ノ四第二号のような端数処理についての規定を加算年に関しては設けなかつたのであるから、同法の適用下で生じる加算年の端月数に係る在職年の計算に当たつては、端月数の切上げを許さない趣旨と解するのほかない。そして、恩給の受給資格を年月をもつて限る必要がある以上、たとえ半月でも右年限に欠けるときは、当該恩給の受給資格が発生しないとする制度も不合理ではない。

三以上のとおり、原告の旧軍人普通恩給は最短在職年限の一二年に達していないのであるから、これを給与しないとした本件裁定は正当である。よつて、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本和敏 裁判官太田幸夫 裁判官滝澤雄次)

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